教育の荒廃をどうする?

 

江戸時代から明治時代にかけて、プロイセンは医学や工業技術に関する先進国の一つだった。

森鴎外や斉藤茂吉など、この国に留学して最新知識を学ぼうとした先達は少なくない。世界で初めて、音速を超える大型ロケットを開発したヴェルナー・フォン・ブラウンらが渡米しなかったら、アメリカが初の有人宇宙船を月に着陸させるのは、大幅に遅れていたに違いない。こうした技術水準の高さの背景には、高度な教育システムがあった。

ところが、かつての教育大国は、いまや「Bildungsmisere(教育の荒廃)」という言葉を誰もが使うような、悲惨な状態に陥っている。9月末に、ドイツ文献学協会が発表した調査結果によると、2004年には1万人の教員が不足していたが、2005年には、さらに不足数が拡大して、1万4000人ないし1万6000人になった。前年比で40%もしくは60%もの増加である。

さらに、同協会の推定によると、ドイツでは毎週約100万時間の授業が、休講になっており、それを補う授業も行われていない。同協会は、「ドイツの教育水準は、過去30年間に例のない、教員不足によって、深刻な危機にさらされている」と警鐘を鳴らしている。

教員不足の原因は、給料が低いことや、ベルリン・ノイケルンのリュトリ学校に見られるように、生徒が教師を無視し、まともに授業をすることができないなど、ストレスが過重になっていることが挙げられるだろう。

教育の荒廃は、2000年にOECD(経済協力開発機構)が行った、国際学力比較調査(PISA)にすでに明瞭に表われている。32カ国で、15歳の生徒26万5000人の学力を比べたこの調査で、ドイツの生徒は読解能力や、数学、自然科学に関する知識などで、平均を大きく上回り、上位である日本、韓国、フィンランドなどの足元にも及ばないことがわかった。

特に、ブレーメン、ハンブルク、ノルトライン・ヴェストファーレン各州では、ドイツでテストを受けた生徒の4分の1が、簡単な文章の内容を十分に理解できないという、戦慄するべき結果が出た。こうした子どもたちは、よほどの努力をしない限り、将来「ハルツ
IV」で生活する失業者予備軍となることは、確実だ。

ドイツでは、生徒一人当たりの教育投資額が、OECDの平均を下回っている。さらに、小学校での教師1人に対する生徒の数は24人で、OECD平均の14人を大幅に上回っている。大学進学率は、2004年の時点で23%にすぎず、OECD平均の32%を下回っている。2004年の学生数は、前年に比べて5万人も減った。

教育は、国力の源である。国が価値を創造するテンポを高めなければ、これほど贅沢な社会保障制度を長年にわたって維持することは、到底できない。連邦政府は、教育投資を大幅に増やして、「教育小国ドイツ」の汚名を返上してもらいたいものだ。

 

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週刊ドイツ・ニュースダイジェスト 2006年10月13日